それは、クライヴがヴァージニア達と出会う………
ほんの数ヶ月前の事だった。
仕事を片付け、ティティーツイスターの酒場で一息ついているところで…
酒場という場所であるにも関わらず、クライヴは上品にダージリンなんてもんを頼んでいた。
ハンフリースピーク出身の彼だからこそなのかもしれないが、はっきり言って場違いな事この上ない。
いや、酒場でダージリンというのが場違いなのではなく、酒場にいる彼が場違いなのかもしれない。
甘いマスクはとても実年齢30歳だなんて思わせない。(笑) しかもやわらかな物腰がそのまんま顔に出ている。
そんな彼が、むっさいオッサン達のごったがえす酒場なんぞに混じるだろうか?
ぜぇぇ〜ったい一人目立つって!
「あんた…………スナイパーだね?」
ほ〜ら来た。
「どうしてそう思うんですか? お嬢さん。」
クライヴに話しかけて来たのは、やたらと肌を露出させた衣装のトレジャーハンターっぽい女。
年は外見で言うと20前後といったところだろうか。
女はビシッとクライヴの背中によりかかっているガングニールを指差して
「こんなもん使うのはスナイパーぐらいだって。」
と呆れた様子で言った。
クライヴはダージリンを一口クチに含むと、テーブルにひじをついて頬杖をつく様に手を組んだ。
「で? そのスナイパーに何の御用ですか?」
「言われなきゃわかんないのかい。 仕事を頼みたいんだ。」
「ぱす。」
クライヴは目をつぶってひらひらと手を振った。
「は、話くらい聞いてくれても良いだろうに!」
「たった今1つの仕事を終わらせたトコなんですよ……少し休ませてもらえませんかね。
急ぎの用でしたら他を当たってください。」
「急ぎはしない! ただ、あんたの腕を見込んで来たんだ!! クライヴ=ウィンチェスター!!!」
女の大声に、クライヴは薄目を開けて女をじっ…とアクアブルーの瞳で見つめた。
その瞳の綺麗さには、女もビックリだ。
ただし、その瞳には綺麗さだけでなく、どこか魔獣の殺意にも良く似た鋭さが奥深くに存在していた。
「………FN(ファミリーネーム)間違ってますよ。」
ぼ〜ん………
これには女も硬直した。
しまった。依頼を頼むヒトの名前を間違えるとは…………
しかしクライヴは特に咎めもせずに、椅子から立ち上がってニコリと微笑みかけた。
「僕の名前はクライヴ=ウィンスレットです。 お間違いなく。」
「あッ…あたしはウィーダ。 ウィーダ=ゼン=リイって言うんだ。」
「どこで僕の間違った名を?」
「あッ……クレイボーン辺りでリュックマンに会ったんだよ。 腕利きのガンマンを捜してるって言ったらあんたのその名を…。
この辺りに来ているから追い掛けてみてはどうだって言われて…ここまで来たんだ。」
「ははぁ。それはわざわざご苦労様です。
………それで? あなたはその腕利きのガンマンにどの様な仕事を頼もうとしていたのです?」
クライヴは物凄くのほほんとした笑顔と声で言う。
ウィーダはカサリと地図を取り出し、「ここ知ってるか?」と聞いて来た。
「列車でデューンキャニオンまで行って、そこからかなり離れた……要するに未探索区域ってトコなんだけど。」
「未探索なら行った事ありませんよ。 第一、デューンキャニオンは巨大な魔獣が生息すると聞いてますからね。
滅多な仕事があったって行きませんよ。 …………そこに何があるんですか?」
クライヴが言うと、ウィーダは地図をしまい、キッとクライヴを見据えた。
「ここにあたしのお目当ての品がある。 だがお目当ての品のそばには魔獣がいるんだ。
あたしがお目当ての品を取って来る間………………」
「その魔獣の足止め……ですか?」
クライヴが見透かしたかのごとく言うと、ウィーダは一瞬ウッと詰まってからコクリとうなずいた。
「あんまり乗り気になれない仕事ですね……その手の話なら腐るほど……」
「じゃあ、その魔獣の名前でも聞かせてやろうかね。」
ウィーダの言葉にクライヴは目を丸くして「え?」と聞き返した。
「瑠璃を抱く怪龍。」
彼女の言葉に、クライヴはさらに目を丸くした。
「瑠璃を抱く怪龍………それって、今デューンキャニオンの駅周辺を荒し周っていて駅員に大迷惑を蒙っている、
列車の協会側が賞金として10万ギャラをかけている大物のアレですか!?」
「あたしは目当てのものを取る。 そしてあんたは10万ギャラのために動く!
………どうだい? 決して悪い話じゃないと思うんだけど。」
「ぱす。」
どがしゃぁ!!
ウィーダは顔面からテーブルに突っ伏した。
んで、ガバリッ!と飛び起き、女独特の甲高いキンキン声でギャーギャー怒鳴り散らす。
「なぁぁんでさ!!! 普通10万ギャラ言われたら目を輝かせて飛びつくもんでしょ!!!
なんだっていきなり『ぱす』なのよ説明しろコラァ〜!!!」
「あのねぇ。 金額高いから飛びつくなんて、そんな安っぽいマネする僕じゃありませんよ。
僕にだって、相手の力量を測るくらいの目は持ってるんですから。
話に聞けば、瑠璃を抱く怪龍は両手に真っ赤な大鎌を持ち、それを使って鎌鼬という遠距離技を放つそうじゃありませんか。
そんな遠距離技を使う戦闘方法は、狙いをじっくり定める僕の戦闘方法とは相性が悪過ぎるんです。」
「よし、わかったッ! じゃあ依頼内容を変えよう!
『一緒に瑠璃を抱く怪龍を倒す』!! これでどうだ!」
「ぱす。」
「なんでぇぇ!!?」
「あなたの実力も見ないままにそんな依頼を受けるワケないでしょう。」
「じゃあどうすりゃ受けてくれるんだよ!!?」
「受けたくありませんし。」
「むっきぃぃ〜!!!」
ウィーダが顔を真っ赤にさせて怒ると。
「クライヴ。」
宿のおかみさんが声をかけて来た。
「はい?」
「デューンキャニオンに行くって言う話…………良かったら引き受けてやってくれないかね。」
「いきなり何を……どういった御用件でしょうか?」
クライヴが尋ねると、おかみさんはキセルをポッポッポッとふかす。
「デューンキャニオンにちょいと知り合いが住んでるのさ。
そいつの安否のためにも、瑠璃を抱く怪龍を退治して欲しいのさ。」
「で、ですからぁ、ヤツの戦闘方法と僕の戦闘方法では…………」
「大丈夫だよ。 あんたの腕前とその頭脳なら、あんなヤツ屁でもないって。
百聞は一見にしかず! 会ってみたら実は図体だけがデカくて弱かった!って話だって腐るほどあるんだからさ!」
「しかしぃ………」
「なんだぃ。 かの高名なクライヴ=ウィンスレットは、そんな噂を鵜呑みにして引き下がる臆病モンかい?」
臆病者と言われてムッと来ないクライヴでもない。
「………そこまで言うのであれば仕方ありませんね……………
わかりました、おかみさんに免じて、引き受けましょう。 その依頼。」
「ほ、本当かい!!? よっしゃぁぁ!!」
ウィーダは嬉しそうにガッツポーズをキメる。
「引き受けはしますが、出発は明日か明後日にしてもらえますか。
3日も張り込んでいたんで………その疲れを取りたいんですよ。」
「あぁ、構わないよ!」
ウィーダが言うと、クライヴはガングニールを持って、2階の寝室へと上がっていった。
ウィーダがその背姿を見送っていると、おかみさんが「感謝しなよ」と言って来た。
「あたしがあんな嘘ついて兆発してなかったら、あんた今頃別のスナイパー捜すハメになってたよ?」
「え……嘘?」
ウィーダが聞き返すと、おかみさんは器用なウィンクをしてみせた。
「デューンキャニオンなんかに知り合いなんて住んでないよ。
あんなトコで暮らす人間がいたら、こっちが見たみたいってもんだよ。」
おかみさんの笑いながらの言葉に、ウィーダは「世の中って奥が深いよな……」と密かに思った。
列車の中でもクライヴは眠っていた。
そのため、危うくデューンキャニオンを乗り過ごすところであった。
「全くッ……これから目的地に向かうってのに、なんて呑気さだい。 あんたそれでホントに腕利きのスナイパー?」
「自分で名乗りを上げた覚えはありませんよ。 腕利きだなんて。」
駅でウィーダがグチると、クライヴは眠そうな目をこすりながらそう言った。
「……で、これからどこへ向かうんです?」
「地図見てなかったのかよ!!(三村ツッコミ)
駅を出て真っ直ぐ地形に沿っていくんだよ! そこに『グランダーテジャス』ってトコがある。」
「どこですかそこ。」
「だぁぁ〜タルいッ!!! いいから行くぞッ!!!」
というワケで、2人は目的地のグランダーテジャスへとウィーダの馬を走らせるのであった。
ウィーダの馬は鹿の血でも混じってるんじゃないかと思えるほど足並みが軽かった。
断崖絶壁も縦方向に駆け上がり、普通馬じゃ通れないだろう!ってトコさえもバシバシ跳んで行った。
「す、すごい馬ですね。」
「馬じゃない。 ハシュラスってんだ。 ヤックルを改造した、脚力に長けたヤツだ。」
「改造!? 動物を改造したんですか!?」
クライヴがウィーダの腰にしがみついて言うと、ウィーダはハシュラスを手綱で操りながら答える。
「改造っつっても脚力強化とか、あくまで生活に必要なだけの改造をしただけだ。 あんまり手酷い改造はしてない。
ARMと一緒さ。 弱点を強化したり、長所をさらに飛躍させたり……その辺は動物も同じなんだよ。」
さらりと言ってのけてくれるウィーダではあるが、それは決して当たり前のことではなかった。
「し、しかし動物の改造なんて、普通の人には出来ない事ですよ? あなた一体……」
「ホラ見えて来た!」
会話を遮るかのごとく、ウィーダが眼下を指差して言った。
見れば、何やらヤケに赤っぽい色をした遺跡が見える。
「なんですかあれ。」
「グランダーテジャスだよ! あそこに………瑠璃を抱く怪龍がいるんだ………!」
ウィーダは歯を軋ませて、どこか憎む様な声で言った。
クライヴがその声に「おや?」と思っていると、ウィーダはハシュラスを嘶かせ、眼下300mは下にある
グランダーテジャスまで、一気に飛び降りた!!!
「ちょ、ちょっとぉぉ!! ムチャし過ぎですよぉぉ〜!!!」
「こ〜れくらい平気平気ぃ!! いっけぇハシュラス!!!」
「イヒヒヒヒ〜ン!!!」
(な、なんかとんでもないヒトの依頼を受けてしまった様だ………!!)
どがっ!! ずじゃじゃじゃぁっ!!!
1度乾いた大地に着地して低くバウンドし、もう1度着地する際地面を滑ってブレーキをかけた。
おかげでクライヴは、まだ何もしてないっつーに冷や汗をかきまくっていた。
どうやら高いトコから急速落下するのはニガテらしい。(笑)
対してウィーダは平気な顔でハシュラスから降りた。
「ここがグランダーテジャス。 あたしの目的の品があり、
そして瑠璃を抱く怪龍のねぐらである………って、オイ、聞いてんのかい?」
「き、聞いてる余裕あるわけないでしょ………あぁ〜まだ動悸がッ…………」
情けないことに、クライヴは地面に手をついてうずくまり、胸焼けを起こしていた。
もちろんウィーダは呆れかえるばかり。
「情けないもんだねぇ。 あたしなんか平気のヘだってのに。」
「あなたの馬が普通じゃないんですよ!」
クライヴが健康になる頃には、外は夕暮れになっていた。 しかし遺跡に入ってしまえば昼も夜もない。
外壁も赤いが、中まで赤い。
遺跡は一体何のために作られたのかがわかれば、建物全体が赤い理由もわかるかもしれないのだが、
生憎と今回はそれを調べに来たワケではない。
中に入るなり、それまでハシュラス急速落下酔いでぐったりしていたクライヴの顔がキリリと引き締まり、
アクアブルーの瞳にはエモノを狙う狼の鋭さを持ち出した。
「やはり噂通りの強さは持ち合わせている様ですね……強い気配をビンビンと感じますよ。」
「え、わかるのか?」
「僕だって気配くらいは読めますよ。」
「……参ったな。 ヤツはかなり奥の方にいるってのに。」
(え…………?)
ウィーダの言葉に、クライヴは一瞬疑問符を浮かべたが、ウィーダが歩き出したのでその疑問符を消した。
中央部へ来るに従って、小さい魔獣が飛び出して来る様になって来た。
「参ったな……数が多い………!」
2人は今、8匹の小さいウサギの様な魔獣に取り囲まれている。
しかも素早い素早い。 すばしっこいすばしっこい。 しかも攻撃が痛い痛い。
いくら命中率高く攻撃力の高いクライブでも、その命中率は落ちついてじっくりと狙うが故のタマモノ。
こんな落ちつきのない忙しない連続攻撃をくらわされては狙いに集中できない。
得意のロックオンスナイプだって、使おうとしたところで後ろからどげしぃッと蹴られておじゃんになったりする。
これぞまさしく魔獣の絶妙なるコンビネーションのタマモノなのだろうが。
「クッ……どうすれば…………!?」
クライヴが歯を軋ませると、ウィーダが「あたしに任せな」と言ってクライヴを自分の後ろに下がらせた。
「ウィーダ?」
「あんたには瑠璃を抱く怪龍を相手してもらわなきゃならん。
そのためにはこんなとこでくたばってもらっちゃ困るのよ!」
言うなり、彼女は剥き出しの二の腕を魔獣に向けた。
「……お色気は通用しないと思うんですけど。」
「じゃかぁしいッ!! そんな事するかっつの!!」
言うなり、ウィーダはニヤリと鋭く攻撃的な笑みを浮かべ、
「クライヴ!
あたしの背中に隠れなッ!!!」
とんでもない怒号を上げるなり、彼女の二の腕が金属音を立てて無数のARMの銃口を剥き出しにした。
「!!!?」
もちろんヒトの二の腕からARMの銃口が生えるだなんて見た事も聞いた事もないため、クライヴは目を丸くする。
「FIRE!!!」
次の瞬間、ウィーダのARMの銃口全てから弾丸が一気に発射され、魔獣達は一瞬で蜂の巣になる。
シュウゥという音をたてて硝煙を上げ、ウィーダの二の腕はカシャンカシャンと元の人間の腕に戻る。
クライヴは、まだショックが抜けきれていない様だ。
すかさずウィーダが説明する。
「ごめん、言ってなかったな。 あたしの体、実は昔の事故でほとんどが義体(シルエットアーム)なんだ。
それでもトレジャーハンターは続けたかったから、ある人にこのカラダを改造してもらった。」
「ある人?」
「ほら、さっきハシュラスはヤックルを改造したヤツだって言ったろ? その改造主のことだよ。」
「あぁ……」
クライヴは納得してからフ〜ッと一呼吸ついて冷静さを取り戻した。
「という事は、今のあなたの体は、全身がARMだという事ですか?」
「ん、まぁね。 色々と特殊技能もあるけど、まぁそれは又今度見せてやるよ。」
そう言って、ウィーダはスタスタと歩き出した。
「こっちだ。 この道を真っ直ぐ行けばヤツがいる。」
「……………。」
クライヴは、今だけは無言のまま付いて行く事にした。
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