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ヴァージニアは今、ちょっと見慣れぬ光景を眼にしていた。 旅の途中、ひと時の休息を得るために立ち寄った村の宿屋にて。 買い物から帰ったヴァージニアが見たものとは。 「これは・・・珍しいわよね・・・。」 机の上に両腕を組むようにして、その上に頭を凭れさせ熟睡するクライヴの姿であった。 クライヴは本が好きである。町の宿へ行けば大抵いくらかの本が備え付けられているものだ。 それを遅くまで(まぁ次の日に響かない程度だが)読みふけっているため、寝顔さえ余り拝めない。 部屋も違うことの多いヴァージニアは特にだ。 ましてやこんな日の高いうちからうたた寝する姿など滅多に、見ること叶わない。 眼鏡をかけ、中途半端に開いた本をすぐそばに従えているところから見るに、今日も今日とて勉強家な彼は、本を読みかけ暖かな日差しに眠り込んでしまったのだろう。 「クライヴも、疲れてるんだよね。」 普段は余りそう思わせないけれど。いや、だからこそ余計に。 ふっと微笑んで、そーっと眼鏡を外してやり、熟睡するクライヴのすぐそばに置くと、極力音を立てないように部屋から抜け出した。 + + + 「何やってるんだ?こいつ。」 ヴァージニアの買出しに無理やり引っ張っていかれ、それを途中で抜け出し帰ってみれば。 いつものいっそこっちが無力化していくような気さえする柔らかな笑みでもなく、だからといって獲物を突き詰めた瞬間のあの炎を凍らせるような鋭い表情でもなく。 ただ幸せそうに眠る姿に、ジェットは思わず硬直してしまった。無性にキモチワルイというか、背中がむずがゆいというか・・・!そんな感じである。 それくらい無邪気であどけない寝顔だった。30超えたオッサンにそれはないだろう、と溜め息をつくと、ふとクライヴが手にしている本に眼が行った。 真ん中あたりのページが開いたままで、彼の手に僅かに押さえられている。 「コレ・・・この間の宿屋でも呼んでなかったか・・・?」 確か、読んでいた。そう、タイトルは【渡り鳥とは何たるかT】。別に興味などないが、妙に熱心に読んでいると思ったら、後に一度進められたのを覚えている。一言で断るとそれを予測していたように残念そうでもなく引き下がったけれど。 「もう、ボケたんだろうか・・・。」 本人が聞けば冷水のごとく怒るか、枯れかけの老木よろしく落ち込むであろうことを呟き、もう一度クライヴの寝顔を見た。 それから今度は深く溜め息をついて、その手からゆっくりと本を奪う。もちろん指先が少し乗っていた程度だったので、熟睡中のクライヴは眉すら動かさなかったが。 その本を少し悩んだあと、パラパラとめくって、そして諦めたようにパタンと閉じ、眠る彼のそばに置いて、そのまま部屋を出た。 ドアを開けた音が思いのほか大きく響いて。彼を起こしてしまったのでは、と少し冷や冷やしながら。 + + + 「・・・お昼寝タイムか?」 一人呟けば、誰もいない田舎の宿に響いて虚しい。 今回は買出しに借り出されなかった年長組、しばしの休息、と外に出て、それなりに定住する人々の風景を楽しんだ。というか思いっきり一緒になって遊んできた。そのノリで貰った大きな紙袋にはオレンジや、キャンディーや・・・とにかく色々なものが詰まっていて、土産代わりになると喜んで受け取ってきたのだが・・・。 なぜ、目の前にいるコレしかいない?ギャロウズはいっそ寂しささえ覚えた。静かで、窓からは光が差し込んでいて、質素なつくりの丸テーブルに突っ伏して寝ている奴はいるけれど。 彼言うところの年少組はいないし、残ったクライヴは熟睡中。 「どーすんだよ、これわ。」 軽く息をついて、クライヴの寝こける机とは違う丸テーブルにもたれかかる。紙袋から一つだけ、オレンジを取り出すと、適当に皮を向いて無造作に食べ始めた。暖かな陽気は少しずつ傾いてきている。 あらかた食べ終わったオレンジの皮を備え付けのダストボックスに放り込んで、もう一つ紙袋から取り出すと、クライヴの眠っている机の上にポンと置いた。 「おすそ分けだ。・・・お疲れさん。」 小さく言ってそのまま残りの紙袋を抱き、部屋を出て行く。 ほんの少しの悪戯心でわざと大きめな音を立てながら。 + + + 日が傾き、空が赤く染まってきた頃、まだヴァージニア、ジェット、ギャロウズの3人は帰っていなかった。そして一人眠り続けていたクライヴが目を覚ます。少し戸惑い、周りを見渡して、状況を把握すると、軽く伸びをした。朝から続いていた気だるい疲労感のようなものがすっきりしていることに、安堵する。 (明日まで引きずってしまいそうでしたが・・・回復したようですね。) ふと。 机の上に眼をやった。伊達でもないがそう悪くもない視力である。一応目の前にあるものくらい普通に確認できる。 きっちりと畳まれ、ちょこんと置かれた眼鏡。 せっかく読み進めた筈がなぜか最初のページまで詩織の戻った【渡り鳥とは何たるかU】。 見覚えのない美味しそうなオレンジ。 「なんでしょう・・・これ。」 その3つを見つめ、少しして笑い出す。どれが誰の仕業か何となく分かるところが面白い。 + + + 「ただいま。・・あら?クライヴ起きたの?」 ヴァージニアが帰ってきた。後ろにどこかで拾ったのだろうジェットとギャロウズを引き連れて。 「はは、スミマセン。すっかり寝入ってしまったみたいですね。」 笑って答え、メガネをかける。本をパラパラと送ってゆき、自分の読んでいたところを探し当てて、詩織を入れた。 「オイ、それ・・・。」 めったに口を開かないジェットが何かを言いかけたようにしたが、もごもごと口を閉じてしまう。 「え?これですか?これも面白いですよ、【渡り鳥とは何たるかU】。」 「・・・・・U・・・・・・・・?」 「そうですよ?Tはこの間の宿で読破しましたけど・・・。」 怪訝な顔をして本の表紙をまじまじと見つめるジェットに首をかしげる。一瞬眼があって、どういうことだか分かったジェットに眼をそらされるとクライヴも苦笑しながら視線を動かす。 机の上に残ったオレンジに手を伸ばして。ポケットから取り出したサバイバルナイフで、オレンジの皮を器用にむき始めた。 「どこかの誰かさんが置いていってくれたようです。頂きましょうか。」 ギャロウズのほうを見てにっこり笑うと適当に切り分けて、勝手に借りた皿に並べた。ヴァージニアたちも囲むように席につき、思い思いのことを話しながら、甘酸っぱいオレンジを口へ運び入れた。 |